首元に宛がわれた鋭い金属の冷たさを感じながら私は目の前の男をゆるりと見た。 汚らしい、下卑た笑み。口に出すことなく(否猿轡をされて話す事が出来なかったんだけど) 小物だと、そう嘲笑った。しかし何処かで聞いたことのある台詞だと思ったら、お父様の口癖だという事に気付いて 今度は普通に笑った。それでも勿論表情は無だ。男はそんな私の様子を気味悪がって悪態をついた。

「こうも静かじゃ張り合いがねぇなぁ?つまらねぇ」
「…。」
「可愛い気のねぇ餓鬼だ」
「…。」

返答も出来ない私に勝手に話しかけて反応が無いことに失望するなんて。どうやらこの男はあまり頭が良くないらしい。 私が恐怖で泣き叫べばこいつは満足なんだろうか。ナイフは首元から私から見えるように ゆっくりと目の前へと運ばれてきた。切っ先がこちらを向いて冷たく輝いている。 刃に映った私の目はナイフに負けないくらい冷たかった。 そもそもナイフや銃なんて見飽きる程見ているのだから恐怖も何もあったもんじゃないし、 こいつは私を殺せない事くらい分かっているのだから臆する必要など何処にも無い。 この茶番に付き合ってやらないといけないのは正直、面倒臭い。 私の恐怖心を煽る事に失敗した男は小さく舌打ちすると、とぼとぼと背を向け歩き出して 近くにあった椅子にどかりと腰を降ろした。舌打ちしたいのはこっちの方だ。国家公認マフィアのボスの娘というのも楽ではない。 政府は混沌に満ちたこの世の中を支配するにあたって、ある策を打ち出した。 蛇の道は蛇。世に蔓延るマフィアたちを制圧するには同業者に任せるのが一番だと踏んだのだ。 それが私の養父サー・クロコダイルが所属している王下七武海である。 政府の犬と罵倒される事も多いが、圧倒的な戦闘力と権威を持つ七武海の元には御零れに与ろうとするハイエナ共が群がる。 つまりは傘下になりたがるファミリーが後を絶たないのだ。しかし父はドフラミンゴさんみたいに要領が良い訳でもないし ジンベエさんみたいに包容力がある訳でもない。純粋に力を求めているのだから、反発が生まれるのも当然だ。 敵対勢力も数多い。私が誘拐されるなんて、言わば想定内の出来事という訳だが

「まさかクロコダイル傘下の俺達が誘拐犯だなんて思わないだろうな!」
「違ぇねぇ!!」

そう、私を攫った男たちはよく父の事務所に出入りをする雑魚共だったのだ。 上納金を納めて、守ってもらえる積もりでいる小物たち。 父は「戦力にもなりゃしねェが小物なりに生き延びようとしてるンだ、見守ってやろうじゃねェか」と 悪い顔で高笑いしていた。つまりコイツらは良い金蔓、父に利用されてる可哀相な人たちなのである。 それでも資金は欲しいという訳で思い付いた奇策というのがパトロンの娘の誘拐という事らしい。

「まぁ金さえ払えば解決するんだ。わざわざ娘の為に助けにくるようなタマじゃねぇよな」
「…(よく分かってるじゃない)」


「テメェら俺に逆らうたァ良い度胸してやがるじゃねェか」


下品な男達の笑い声が充満していた部屋に他のものとは違う低い声が響いた。 しんと静まり返った男たちの視線を一身に集めていたのは見慣れた黒いファーコートに身を包んだ父だった。 娘を助けに来た父親と呼ぶには到底似つかわしくない笑みを浮かべた父は一瞬にして部屋にいた小物たちを一掃した。 正直、あまりに早過ぎてよく覚えていない。


「どうして、お父様が?」
「ア?…不服か?」
「いえ、私はてっきりMr.2あたりが来るものかと…」

身代金を支払う積もりなんて父にはサラサラ無かったことくらい分かっていた。 私たちの目的は金の払いが悪くなって使えなくなったあのグループの殲滅。 そう、この誘拐劇は我々の作戦に組み込まれた内の一つだったのだ。 力があるとはいえ身内を潰すとなるとそれなりの理由がいる。 それが私の誘拐によって成立するのだ。だから誰かが助けに来ることも分かっていたんだけど

「まさかお父様直々に来てくれるなんて思わなくて、あの」
「…父親が娘を助けて何が悪ィ?」
「…ありがとうございます」
「フン…」

その後、別に何かあった訳でもないのにお父様が私にプレゼントをくれた。 あまりに唐突過ぎて綺麗にラッピングされた箱を抱えて戸惑っている私に向かってロビンさんは 「サーも娘を囮にするのは心苦しかったみたいね」と可笑しそうにクスクス笑った。 プレゼントを手渡してから足早に去って行った父の背中に向かって私は駆け出した。


〜更に後日のバロックワークス〜
様、誘拐されても毅然とした態度だったそうですね)
ったらやるじゃないのよーぅ!)
(クハハ、流石は俺の娘だろう?)
(えぇ…(親バカか))((親バカねぃ…))


やっちまいましたマフィアパロ…ボスな鰐とか最高に萌ゆる。
きっと鰐は不器用なので物を買い与えたりするくらいでしか
お詫びとか出来ないんだろうなぁ、不器用親子。
でも娘がいない時は部下に色々自慢とかしてるんですよ。