「どうしよう私サーの事好きになっちゃったかもしんない」
「は?」
「えっ、いや、だからサーの事がす、」
「俺が聞きたいのはそういう事じゃねェ」
「…すいません」

俺が聞き返したのはそういう答えが聞きたかったからじゃねェ。
そもそも俺がこの状況で聞きたかったのはそういうことじゃねェっつー事くらい
理解しやがれ、この馬鹿娘!!
普通、個人面談で開口一番言う台詞じゃねェだろうが。
おそらく俺の怒りの原因すらこの女は理解していないだろう。
納得いかないとばかりにこっちを見つめてくる。

「色仕掛けするんだったらもう少し考えろ馬鹿が」

尤もお前程度の色気じゃ無理だな。もっと良い女になるこった。
そういって鼻で笑うとは口をぱくぱくさせて絶句するばかりだった。
この女、この先一体どうするつもりなんだ。こんな成績で。
頭を抱えたい気持ちを精一杯押さえつけながらを睨み付けると
コイツは「ひぃっ」という情け無い悲鳴を発した後、わたわたと慌てながらも
無駄に一生懸命に反論の声を上げた。

「いっ、色仕掛けじゃないもん本気だもん!」
「だったら尚更タイミング間違ってるんじゃねェか?」
「・・・・。」

少し黙ってから、私なりに考えたんですよ、と俯いて唇を尖らせては呟いた。
その様子があまりにもガキっぽくて俺は何故かそのままコイツの先の台詞を聞いてやろうという気になった。

「だってこういう事言おうにも先生と二人になるような状況なんてないじゃないですか。
 教室だって誰かいるし、廊下だってそうだし。このタイミングしかなかったんだもん…」
「・・・・。」
「無い頭で頑張って考えた結果がコレですよ!」
「・・・・。」

俺は何を黙っているんだ。確かにこの女の言ってる事は一理あるが
コイツが言ってる事は根本的に、倫理的に、間違っているのだ。
…その罪悪感がどれほど俺を悩ませたことか。

「…テメェ、これからの進路どうする気だ?」
「(私の告白は無視ですか)進学…したいです」
「…ハンッ」
「嘲笑った!!嘲笑ったね!?」
「その前に進級出来んのか、テメェは」
「うっ…」

現在高校二年生。普通の生徒ならば本格的な受験生になるにあたって
最終的な方針を決めていく為の面談なんだが、この女はそれ以前の問題だ。
得意不得意が分かりやすい分、まだ救い様があるものの本人にやる気がねェ。
出来る癖にやらねェ。俺ァそういう奴が一番嫌いなんだよ。

「取り合えず進級しろ、話はそれからだ」
「はい…」
「頑張り次第によってはさっきの話、考えてやってもいい」
「…は?」
「…ッ何度も言わすな馬鹿が!」

さっきのお前の告白、飲んでやってもいいって言ってんだ俺ァ!

何ガラにも無く照れてんだ、俺は!
目の前の女は一瞬だけぽかんと間抜け面を晒したかと思えば、今は頬を赤らめて
ふにゃりと幸せそうに笑うだけだった。つくづくおめでたい奴だな、お前。
それでものこの顔を見て少しだけ胸の辺りが暖かくなった俺のほうが
もしかしたらおめでたいのかもしれないと小さく思って密かに舌打ちをした。

(サー!私、頑張るよ!)
(じゃあ放課後、この俺が特別に補習してやる。覚悟しろよ?)
(…まったくときめきの要素が感じられないのは何故だ)
(真面目にやれ!)