「…あんたが私だったら良かったのに」

いつもは煩わしいくらいの船内は嫌に静かだった。 俺の右手が新聞記事をめくる音に混ざり合うかのように発せられた女の声など、そうでなけりゃあ確実に聞き逃していた。 女の声は小さく、誰かに届けるというより独白に近いものがあった。 だから俺ァ一瞬何の事だかも誰に向けられた言葉なのかも解らず、ちらりと横目で部屋の中を見回したが そこには俺とコイツしかいなかった。やっと視界に捕らえた女は射殺すような目つきで俺を見つめ続けていた。

「ハッ…」

何の事を言ってンのかサッパリ解らねェ、と嘲笑ってやるとは忌ま忌ましそうに舌打ちを漏らした。 きっとこの俺にここまで在り在りと感情を表現する女は後にも先にもこの女しかいないだろうとぼんやり思った。 しかし本当に解らないのは、この女の牙が俺に向けられる理由だ。 麦藁共が俺を憎むのは解る。あの甘っちょろい偽善者が治める砂漠の国を陥れたからだ。 だがな、お前はあの時この一味にはいなかっただろう? お前はアラバスタの一件の後、この船に乗り込んだはずだ。 馴れ合うつもりなど毛頭ありゃあしねェが理不尽な敵意を向けられちゃああまり良い気はしない。

「…私はあんたが羨ましいんだよ」

だってこの船で一番ロビンと付き合い長いでしょ、と先程とは打って変わって、 ふいと視線を俺から逸らした。ますます意味が解らねェよ。 密やかに狼狽する俺の心中を察してか蚊の鳴くような声でごめん、と謝った。オイ、それじゃまるでお前

「あの女が好きなのか」
「…自分でもよく分かんない」
「…!テメェ…」

ロビンの笑顔見てるとすごい嬉しいんだよ。
ずっと笑っててほしいって、幸せにしてあげたいって思うんだよ。
…一緒にいたいって、思うんだよ。

どうやら俺の出した答えは大正解だったらしい。は小さな頭を両手で抱えてうなだれていた。 僅かに紅潮した耳が髪の隙間から覗いている。あの殺気は嘘の様に消え失せていた。 女同士だとか何だとか言いてェ事ァたくさんあったがそれどころではなかった。 きっとそんな事はコイツが一番良くわかってるだろうからな。

「友達として好きなのか仲間として好きなのか自分でもよく分かんないんだよ」
「テメェの事ァ、テメェが一番よく分かってンじゃねェのか」
「…まさかサーとこんな話する事になるなんて夢にも思ってなかった」
「俺ァ今でも夢だろうと思ってるぜ」
「はは、ごめん。変な事言い出して」

「でもね、私の知らない所で二人が共有した時間があるんだと思うと
あんたがどうしようもなく羨ましくなる瞬間があるんだよ」

か細い指の間から垣間見えたの顔は今にも泣き出しそうな笑顔だった。 思い出せば俺と一緒にいるときのコイツは決まってこんな顔をしていたような気がした。 そんな顔するんじゃねェ。そんな泣きそうな顔で笑うんじゃねェよ。俺はお前にそんな顔をさせたい訳じゃねェ。 どうしていつも俺はコイツにこんな面ばかりさせちまうんだ。

(俺もお前に笑っていて欲しいなんて思ってたら、お前はどうする)

そんな感情認めねェぜ俺ァ。小さく舌打ちをすると視界の片隅で女がびくりと肩を震わせるのが見えた。




本当はもっと殺伐としたお話だったんですが気付けば切ない感じになってました。
なんか鰐は物凄く片思いが下手そうだなぁと思いました。←
きっとこの二人は絶対くっつかないだろうなぁ(コラ)