「クロコダイルさん、誕生日おめでとう!」

ひょっこりと目の前に現れた女は反吐が出るほど楽しそうに笑って言った。
それとは対照的に、の向こうに見える空は生憎の曇天で今にも雨が降りそうだ。
ただでさえ苛々してるっつーのに、この女のせいで一層苛々する。

「…はァ?」
「ほら!今日は8月2日!鰐の日だから!」
「……。」
「え、」
「……。」

「ほ、ホントに誕生日なの…?」

何時もならば小さな嘲笑と共にコイツの脳天に拳を食らわすところだが今日はそうはいかなかった。
なぜなら偶然にも、本当に偶然にも、女の言葉は真実だったからだ。ぴくりともしない俺の右手と沈黙に
はムカつく程に澄んだ瞳を大きく見開いた。
…テメェが勝手に言い出したくせに何驚いてンだ…!?沸々と沸き上がってくる怒り。
冗談のつもりで言ってたのか、コイツは…!
別に傷付いてる訳ではない。断じて違う。断じて。

「…ッ!」

気が付けば俺の右手は平常を取り戻し、否通常以上の速さで女の頭にヒットした。
うぐっ、と可愛くも何ともねぇ悲鳴を漏らしては崩れ落ちた。ざまァみやがれ馬鹿娘が。

「いっ!痛ーっ!!なんっ、で!?」
「テメェ、今笑っただろ!?」
「笑ってないし…!祝ったのに殴られた…!」

お前が勝手に祝っただけだろうが。こっちは祝ってくれと頼んだ覚えはねぇ。
未だに納得出来ねェのか反抗的な目つきで俺を見上げてくる
…半泣きでそんな顔されても何ともねェんだよ。

「横暴過ぎる!」
「うるせェ!」

クロコダイルさんの鬼!悪魔!砂!とか何とか意味の解らんことを(半分は半ば本当の事だが)ぎゃんぎゃん吠える女を見下し
もう2、3発ほど殴って…むしろミイラにしてやろうかと思った瞬間に襲ってきた倦怠感。
今までもこれっぽっちも信じた事は無かったが心底神なんつーもんはいないと痛感した。

ザァァァァ…

…確実に降るとは思っていたが、このタイミングで降ることは無いだろう。
言い知れぬ虚しさと徐々に重さを増してゆく身体。力が、入らねェ。

「くっ…」

がくり、と膝をつくとはビクリと肩を震わせてから心配そうに俺を見た、が。その後一瞬、笑った。
嫌な予感がして警戒態勢を取った。しかし俺は場違いにもよく表情が変わる奴だとぼんやり思った。

「誕生日おめでと!クロコダイルさん!」

ガバッと抱き着いてきた女に抗えなかったのは少し嬉しいと思ってしまった訳じゃねェ!
身体が動かなかっただけだ!


今日も誰かの誕生日


大好きな某サイトの管理人様が「鰐の誕生日は8月2日」と仰っていたので触発されて書いてみました。
わにわに可愛くて大好きです。