「っあーもういい!てめぇには頼まねぇよ!!」
「外山…!?」

「めんどくさいから、お前は俺の家で面倒見てやる」

不甲斐ない管理人に痺れを切らして堂々と宣言してしまった自分の発言に驚いたのは
何を隠そうこの俺自身であることは間違いない。
別に態度が悪かったわけじゃない、ただ動作が鈍いわイライラするわで
早くこの状況に蹴りを付けたくなったのだ。
それでも言ってしまった手前、狼狽えてなどいられない訳で
この毅然とした態度を保っていなくてはいけない。
目の前の女と役立たずな管理人は羨ましい事に、ぽかーんとした顔で
思ったことをそのままストレートに表情に具現化しているが。
…自分らしくない事はするもんじゃねぇな。

「おら、行くぞ」
そういっての手を掴んでマンションを飛び出したのは
今から30分程前の事になる。

やっと落ち着ける自宅に着いてから、とりあえずは彼女をリビングに案内する。
普通ならお茶の一つも淹れてやるもんだろうが、それどころじゃない。
「お前、荷物自分で持ってこいよ」
「……うん?」
「俺、明日…つか今日だけど仕事だし手術あるし」
お前は確か非番だったよな。
そう言い放つとの目が面白いくらい見開かれていって
「いやアンタが管理人さんに向かって大口叩いちゃったから戻りづらいんですけど」

…全くごもっともな意見に俺は黙って受話器を取って業者に電話した。
手続きさえこっちで取ってやれば文句は無いだろう。
「…部屋、使ってないのあるからそこ使えよ」
喧嘩にならなかったのが奇跡だと思えた。
その日、俺に対抗するほどの気力は無かったのだ。
ほんとうに疲れた。

それからしばらくして、いつものように北洋に向かった俺だが
家の事との事で悔しいが頭は通常の60%ほどのペースでしか作動してくれない。
「…なんか外山先生、疲れた顔してますけど大丈夫ですか?」
「…あぁ?」
目聡い同僚には何故か心配される始末だ。
「別にいつもと変わんねぇよ」
「…?そうですか」

それでも手術は完璧だった。さすが俺だ。

家に帰ると、そこは至って平和だった。
「あ、おかえり外山!」
見覚えのないマグカップに湯気のたったコーヒーを満たしたに笑顔で出迎えられた。
(たぶんコイツの私物だろうな)
誰かに”おかえり”と言われるのは少し違和感があるが、悪くはないなと思う。
「はい」
ぼーっとしてると、いつのまにかが俺の分までコーヒーを用意していた。
(このカップは俺のものだ)
一口飲むと、普通にうまくて少し驚く。
「悪いけど勝手に使っちゃったよ、アレ」
そういって彼女が指さしたのはキッチンのエスプレッソマシンで
今度からはコイツに淹れさせよう、と思った。

も一人暮らしだったので、幸い荷物も少なくて住んだ。
部屋には、ちゃんと収まったらしい。
とりあえず本当に落ち着きを取り戻した俺たちだが
「…なんでお前、俺に電話してきたの」
「え?」
もっと早く気付くべきだった。
確かに俺たちは同期で、同僚で、何かと一緒に仕事をする機会も多かった。
同じ胸部血管外科医で、俺が執刀医の時は必ずコイツに第一助手を任せた。
然し気が合うかといえば、そうでもない。
お互いの負けず嫌いで気が強い性格が手伝って衝突する事も多い。
助けを求めるなら自分で言うのもなんだが俺じゃなくてこう…
藤吉とか…伊集院とか…適役なやつらがいるだろう。
そんな疑問をぶつけてみると、彼女は少し言葉を濁してから

「なんか…気付いたら外山に電話繋がってたの!起こしてごめん!」

…俺が聞きたかったのは謝罪の言葉なんかじゃねぇっつの。
聞き方が悪かったんだろうか。怒ってると思われた。
それもまぁ、いつものことなのだが。

それでも自分を頼ってくれたのが少し嬉しくて頬が緩んだ。
らしくない自分が少し気持ち悪くなったので
「よし、じゃあ新しい物件見つかるまでお前は俺の奴隷な、よろしく」
「えぇー!?」

(ゴメンネ、俺素直じゃねぇの)

08.4/2 相変わらず何がしたいんだかサッパリな文章ですいません。