暗闇と静寂に包まれた自宅にけたたましい電子音が響き渡った。
無機質なサブディスプレイの時計は真夜中の2時を表示している。
なかなか寝付けなかった俺は、この頃になってようやく微睡み始めていたので
予期せぬ着信音には相当の苛立ちを覚えた。
思わず携帯を壁に投げつけてやろうかと思ったほどだ。
まさに最悪の気分を味わった俺は発信源も確認しないまま通話ボタンを押した。
「あぁ!?誰だよこんな時間によぉ!!!」
「もしもし外山!?どうしよう…!!」
耳に飛び込んできたのは悲痛な同僚な声だった。
悲鳴と言った方が正しかったかもしれない。
それは同じ病院に勤める同じ血管外科医の女のものだった。
彼女の声には只ならぬものがあって、俺の意識は完全に覚醒した。
そうだ、コイツはこんな真夜中に電話をかけてくるようなヤツじゃねえだろう。
熱くなっていた頭がゆっくりと冷えていくのを感じた。
「おいどうしたんだよ」
「かべ…かべが…!」
「はぁ!?」
もしかして変な夢でも見たんじゃないかと半信半疑になりつつも会話を続ける。
「とにかく落ち着けよ。何があったか話してみろ」
「う、うん…ごめんね外山…あの、部屋の壁がね…」

いきなり崩れたのよ、信じられる?

…信じられるわけねぇだろ。

あぁ、やっぱり夢じゃないか。
そう思って電話を切ろうかという考えが9割を占めたとき
「お願い助けて…」
今にも泣きそうな彼女の声が全てを逆転させた。

気付けば俺は車のエンジンを駆けての家へと向かっていた。
(もし嘘だったらぶん殴って泣かせてやろうと思う)

彼女はマンションの最上階に住んでいた。
小さな箱が上に上っていくまでの時間が酷くもどかしい。
そうしてゆっくりと開いた扉から飛び出した俺は彼女の部屋へと走る。
(あれ、なんでこんなに必死なの自分)

「おい開けろよ!」
パニックになっている彼女には悪いが、こっちだってイライラしているので
インターホンは連打させてもらった。
するとすぐにドアは開いて、不安そうな瞳をしたが顔を出した。
俺の顔を見ると安心したんだかよく分からんが一瞬だけ泣きそうな顔をしてから
真剣な顔になって(すごい百面相だ)部屋へと案内された。

本当に壁は無惨に崩れていた。
むしろこれは過去に壁だったもので、現在は瓦礫、だ。

あまりにぶっ飛んだ光景に俺も呆気にとられてしまい
頭を現実に適合させるのに少し時間がかかってしまった。

「…なに、お前の部屋テロにでも遭ったの」
「ばっ、こっちは本気で困ってんのよ!!」
緊張の糸が切れたんだろうな。
の瞳から堪えていた涙がぼろぼろと零れ落ちてきて
静かに狼狽する俺は、とりあえず頭を撫でるしか出来なかった。

(ガキは苦手だっつってんだろ…)

08.3/29  母の同僚が本当にこれと同じ状況に陥った事があって、ネタにさせてもらった。