「つまんない」
「……」
目の前で小さな主は長い髪をシーツの波に委ね、長い足を投げ出して如何にして退屈を凌ごうかと策を練っていた。
黒いワンピースの裾からは白い太ももが露わになっている。
彼の立ち位置によっては非常に危うい。
そんな事を気にする素振りも見せずには、あーでもないこーでもないと取り留めもなく思案を浮かばせては消していく。
側に仕えている従者が目のやり場に困っている事にも無論気付いてなどいない。
取り敢えず賢い彼はの寝転がるベッドの縁に腰掛けて危機を回避した。
「…様…」
「なぁに?ケルベロス」
しまったと、心中で密かに苦虫を噛み潰した。
長い睫毛に縁取られた中は只ひたすら黒い。
潤いに満ちた瞳で見上げられて、赤い唇で名前を呼ばれれば>
先ほどとは違った誘惑が彼を襲う。
「…貴女は私をもう少し男として意識した方がいいですよ」
「へ…?」
堪りかねた彼が発した警告は上手く伝わらなかったようで
少女は柳眉を不思議そうに歪めては疑問符を飛ばす。
そんな様子を見たケルベロスは小さく溜息を零してからの黒い艶やかな髪に手を伸ばし
さらさらと指の間をすり抜けていく感触を楽しむ。
「何が言いたいのよ」
暇を持て余す彼女の機嫌はあまり宜しくないようだ。
ケルベロスは小さく笑うと今度はの白い頬に手を遣る。
幼いときから行動を共にしている従者に対し警戒心は皆無のようで、その手を振り払うでもなく
ただ不機嫌そうに彼を見つめるだけだった。
(抵抗しないならば…仕方ないですよねぇ)
心中でほくそ笑みながら、ケルベロスは流れるような動作で口付けを落とした。
大きな瞳を見開き驚く主の姿に多少の満足感を覚えつつ悪戯半分で舌を挿し入れると
彼女は非力な拳で彼の胸板を叩いて抵抗した。所詮男女の力の差など埋まるはずも無く
逃げる舌を追いかけて絡めとれば時折、苦しげな悲鳴が小さくあがった。
そんな反応が可愛くて仕方がない。
離れるのが名残惜しく、最後に下唇をぺろりと舐めた。
「ぁ…っ」
「…でなければ、こういうことになるのですよ、様」
「はぁ…っ、お前…!」
「続きは…またの機会にしておきましょうか。嫌なら少しは謹んでくださいね」
最も謹んだ所で彼は自分の計画を中止するつもりなど毛頭ない。
相変わらずの笑みを浮かばせている従者に向かって
少女は赤い顔で涙を浮かばせながら手近にあったクッションを投げつけた。
当たったところで大して痛くもないそれを避ける意味も無くて
自分の行いの贖罪も含めて、彼は敢えて避けなかった。
クッションは、ぼふんと当たって床に落ちた。
ドアの閉まる小さな音を合図に少女は、ぱたんとベッドに転がって別のクッションに顔をうずめた。
(び、びっくりした…!)(恥ずかしくて死にそうだ…!!)
暫く経ってから、再びケルベロスが部屋のドアを叩くまで。
(…様、ショートケーキ食べますか)
(…食べる)
08.4/6 最後のはケルベロスなりのお詫びです。寸止めプレイ(笑)