「ねぇねぇ、小川くんと藤原くんのこと、どう思う?」
年齢不相応なキラキラした瞳を向けて福原先生は言った。

今、二人は飛鳥にいる。
やんわりと拒絶する小川先生に気付いているのかいないのかよく分からないが
(もし気付いていたとしたら彼女は凄い人だ)
半強制的に、飛鳥の案内役を申し出た藤原先生に連れて行かれた。
きっと帰ってくる頃には、げっそりとした表情で敷居を潜るであろう小川先生に思いを馳せてみる。

「ねぇねぇ無視は良くないよネー、ちゃん」
「そういうつもりはありません」

ここは私の部屋で、私は只今英語の問題集に取り組んでいる所だ。
そして福原先生は私のベッドに転がって小説を読んでいる、ように見える。
ちなみに先生が手に持っているのは谷崎潤一郎の「春琴抄」だ。
(私の本棚からさっき抜き取っていた)
それでも細くて長い骨張った指は、規則的に頁を捲っていく。
なんだかとても絵になる光景だ。

「どう思うって、どういう意味ですか?」
「んふふ、分かってる癖に」
「・・・確かに、お似合いだとは思いますけど」
「でしょー」

然し軽薄そうに見える言動の裏で誰よりも思慮深い事を私は知ってる。
福原先生の言う一言一言には必ず意味があるんだって事も知ってる。

「彼女なら、きっと小川君の支えになってあげられると思うんだ」

いつもよりも真面目な声色で呟いた先生の手はいつの間にか止まっていた。

「私も、そう思いますけど」
「うん、ボクらがしてあげられることは何もない」
「そうです、ね」

嫌だな、静かにならないで下さいよ。
先生喋ってないと気味悪いんですよ。

「せん、せ」
「ねぇちゃん」

ずいっと、それこそお互いの息が感じられるほど近くに顔を寄せる。
驚いて声も出ない私はただ体を硬くして身構えるだけ。
それから直ぐに分かった。それが狙いだったんだと。

「わ、ぁ!?」

私は抱き上げられる子犬よろしく腋の下に差し入れられた福原先生の手によって宙に浮く。
その細い体の何処にそんな力があるのだろうかと思うくらい軽々と。
そして気付けば先生の膝の上にいる。恥ずかしい。

「な、なんですか!?降ろして下さいよ!」
「だめー」
「えぇー!?」
ちゃん、あったかいねー」
(会話になってない!!)
縫いぐるみのように、ぎゅーっと抱きしめられる。
少し苦しいけど、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
ちょっと、落ち着くかもしれない。
今更だが、私と福原先生の関係は”生徒と教師”な訳で
世間一般からしてみたら、きっと悪いことなんだろうなと思う。
罪悪感や背徳感が無いかと問われれば、きっとお互いそれは有している。
”共犯者”なんですよね、私たちは。

「・・・ちゃん」
「はい?」
名前を呼ばれるって、こんなに嬉しいものだったろうか。
気付けば自分も先生の背中に腕を回していた。

「ね、ボクのお嫁さんになる気、ない?」

(・・・きっと幸せってこんな感じ)


Happiness!!


08.4/18  頑張ってみました(何を)