ざぁざぁざぁざぁざぁざぁ…
曇天から降り注ぐ雨は容赦無く地面を叩き付けて
弾かれた水滴は楽しそうに飛び跳ねては消える。
だけど、ボクは全然愉しくない。
隣に佇むちゃんも瞳に景色を映すだけで表情は無い。
つまらなそうに空を見上げては偶に小さく溜息をこぼす。
ボク等はただ黙って雨宿りをしていた。
ちゃんは昨日からボクと目を合わせようとはしなかったし
必要以上の言葉を交わすことも避けていた。
所謂喧嘩というものである。

原因はボクにあった。
校舎内で、どうしても我慢できずにキスしてしまったのだ。
(美術室に頼まれた荷物を届けてくれた彼女を見てたら…こう…ね)
(好きなんだから仕方ないよねぇ)
真面目なちゃんは、それに酷く腹を立てたようで
それから家に帰っても口きいてくれないし晩酌にも付き合ってくれない。
いつもはお酌してくれるのに。
ボクは独り寂しく飲んでたんだよ、お酒。
(小川くんは最近忙しそうだし、藤原くんは出掛けてた)
謝ろうにも拗ねて目すら合わせてくれないちゃんは聞く耳を持たなかった。

それなのに今朝、祖母からお使いを頼まれてしまった。しかも二人で。
行きも気まずかったけど、帰りに突然ぱらぱらと降り始めた雨が更に空気を重くした。
降り始めこそ軽い通り雨くらいの勢いだったのに、徐々に激しさを増して豪雨になった。
なんだかこれからのボク達みたいに思えて寒気がする。
生憎傘を持っていなかったボク等は近くにあった平屋の軒先を借りて雨宿りをすることにした。
それからどれくらい経ったのかさっぱり解らない。ただ恐ろしく長く感じるのは確かだ。
さっきからボクを押し潰すような圧力を懸けてくるくせに
さも知らん顔で重そうに浮かんでいる黒い雲を恨めしく睨み付けた。

この喧嘩にも厭きたし、あの雲にも、もう厭きた。

「行こう、ちゃん」
彼女の手を掴む。
長い沈黙を破ってボクは鉛色の粒の中へ飛び出した。
ちゃんは驚いた為か抵抗もせず素直に付いてきてくれた。
後ろからパシャパシャと聞こえる軽やかな水音。
「ふ、福原先生!濡れちゃいますよ!風邪引いちゃいますよ!」
「たまにはこういうのも良いよねぇ」
彼女の忠告を聞こえない振りで殺した。
顔には自然と笑みが零れる。
雨の帳が下りた街はいつもと違って見えた。
「風邪引いたら二人で休んじゃおうよ、学校」
そう言うとちゃんの笑い声が聞こえた。
「先生、なんか小学生みたいで」
「…いいよ、子供で」
ちょっと馬鹿にされたような感じが否めないんだけどなぁ。
「怒ってたんじゃないの?」
少し躊躇ったけど思い切って聞いてみた。
この空気がこれでまた崩れてしまったらどうしようかと。
この手を振り解かれてしまったらどうしようかと、恐ろしくなった。
「なんか、怒ってるのが馬鹿馬鹿しくなってきちゃって。ごめんなさい、先生」
驚いた。
彼女が謝るなんて思っても見なかったから。
心の片隅で、きっとボクが謝るまでちゃんは許してくれないと思ってた。
どこかで意地を張っていたのかもしれない。
謝ろうと思えばいつだって強引に話しを聞かせる事が出来たのに。
ボクは自分で思ってた以上に彼女の言う通り子供だったのかもね。

もやもやした喧嘩の余韻をパシャっと蹴散らすように、踊るように歩いていく。
なんだかすごく楽しくなって、二人で笑いながら家路を急いだ。

(ざぁざぁざぁざぁ!)

仲直りの証に、もう一度、口付けてもいいかい?

(ただいまー)(うわ、二人ともすごいびしょびしょじゃないですか!風邪引いちゃいますよ!)
(んふふ、大丈夫だよぉ)(…重さんなんか嬉しそうですね)


08.3/13 キリンジの「雨は毛布のように」で書きました。もろですね。