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私がこうして先輩のお家に遊びに行くなんて、ちょっと前までは考えられないことだった。 私、どんな顔して会えばいい?こんな下らない事で狼狽するなんてきっと私だけ、藤吉先輩は気にもしないことだろうけど。 学生時代、私は藤吉先輩が大好きだった。結局のところ、口にすることは出来なかったけれど。 先輩は誰にでも優しいから、勘違いしているのではないかと怖かったのだ。 彼が卒業して、連絡を取り合う事はあっても会う機会は無くなってしまった。否無いほうが良かったのだ。 そうすれば忘れてしまえるから。私は想いを振り払うかのように医者を目指した。 そして、再会してしまったのだ。ビックリした。だって先輩、全然変わってないんだもん。 「飲みに来ないか」って誘っていただいたとき、私の鼓動がどれだけ乱れたことか 先輩は絶対に分かってない。優しいけれど、怖いひとだと思う。 ワイングラスを傾けながら、ぼーっと思い返していた。 沈黙が怖くて、鈍くなった思考回路をフル回転させて話題を探した。胸が苦しい。 嘘を吐いてる訳じゃないけど、本音を言ってる訳でもないんだ。 「せんぱい、わたしね」 楽になりたい、もう我慢は出来ない。 その思いから吐き出した一言に先輩は酷く動揺したような顔をした。 申し訳ない気持ちと、よく分からない安堵で涙がぼろぼろ零れてきた。 先輩は子供をあやす様に私の頭を撫でると、滴を指で優しく拭った。 まるで昔のようだと思った。学生時代にもこんな事、あったっけ。 懐かしくあると同時に、少し悔しかった。昔と何も変わってはいないのだと。 それでようやく諦めがつくかと思っていた、のに。 暖かな腕が私を包んで、耳元で先輩が囁いた。 「俺も、ずっと好きだったよ。ずっと」 その一言で私は弾かれたように俯いた顔を上げる。 藤吉先輩は困ったように笑ってから、私の涙を舌で舐めとった。 目蓋を閉じるとくすぐったい感触。そこから降りてくる唇。 口内にぬるりと侵入してくる舌を享受して、絡ませあう。 息苦しくて先輩の服を握り締めると、呼応するように私を捕える腕の力が強くなった。 「は、ぁ!ふじ、よしっ、せんぱい…っ!」 「……」 「…んっ、」 強く胸元を吸われて、浮かび上がる赤い痕。 肌蹴てしまった服の隙間から差し込まれた手は優しい。 それでも先輩に触れられた部分からは毒が徐々に広がっていくようだ。体が熱い。 腰の辺りを撫でられ、びくりと身を震わせると先輩が小さく笑った。 「…せんぱい?」 「いや、悪い。が可愛かったから、つい」 「…なんですか、それ」 和やかな雰囲気は先輩の指によって、否その指に弄ばれる私の嬌声によって壊れた。 「ァ、あぁ…っ!」 「なんだ、ここが好いのか」 「あっ、だ、め…!」 「だめ、じゃないだろう?」 先輩は、案外意地悪だ。心底楽しそうな声が頭に響いて、素直な私は また声を上げてしまう。妙なスパイラルが始まった。 先輩の一挙一動が私を刺激する、狂わせる。 やっぱりわたし、まだ好きなんだ、この人が。 気付いてしまったことで涙は再び溢れそうになる。けれど先程のものとは 少しだけ違うような気がするのだ。 私の涙を察したのか、先輩は顔に掛かった私の前髪を手で払うと 額にゆっくりと唇を落とした。きっと、それが合図だったんだろう。 下腹部に感じる圧迫感。自分でも驚くような甘い吐息が洩れた。 「…あいしてる」 ぎしぎしと叫ぶスプリングの音に紛れて、小さく、でもしっかりと聞こえた言葉。 せっかく堪えてた涙が無遠慮にぼろぼろ零れてきた。 私も、愛してます、と答えると先輩はまた困ったように 相変わらず泣き虫だな、と言って笑った。 「はぁ…ん!あ、う、せん、ぱい…!」 「…っ、」 私に覆い被さる先輩の顔が少しだけ苦痛に歪んだ。 (爪…立てちゃった…) 縋る様に腕を回した背中には、きっと赤い線が刻まれてる、はず。 深く深く腰を打ち付けられて朦朧とする意識の中で 不謹慎にもこの傷跡が消えなければいい、なんて思った。 |