「?…おい、聞いてんのか」
「あぁ、ごめん秋山」
ここは真面目な学生達が勉学に励むべく訪れる大学の図書館の片隅。
今、私の目の前に座って難しそうな心理学の論文を真剣に見つめている秋山深一が発見した穴場である。
何故か此処はいつも静かで、人通りが少ないため彼はよくこの場所を利用する。
まぁいくら静かな場所でも私が付いてきている時点で秋山の目論みは全て無に帰してしまっているが。
「で?なんだよ、さっきの話の続き。」
「あー…私のバイト先の上司が嫌な奴でさぁ。」
「…お前が住み込みで働いてるっていうアレか。」
私は、自分の身に降りかかった災難を住み込みのバイトと称して友人(と私は思っている)の秋山に愚痴を零している。
一応、内容は“事務”という事になっているので問題は無いと思う。
「そうそう。あの人の性格があまりにも悪すぎて最近人に優しくされると泣きそうになるんだよね。」
「…お前相当病んでるな。」
迷惑そうに眉間に皺を寄せつつも、彼はちゃんと私の話を聞いてくれる。
お馬鹿さんだね、だから私はその優しさに甘えちゃうんだよ。
こうして勉強の邪魔をされたくないんだったら、冷たく突き放せばいいのに。
ふっと邪な考えが頭を過ぎったけれど、たぶんそれは間違いだと、直ぐに気付いた。
馬鹿なのは私の方だ。秋山はそれを解った上で、私の相手をしてくれているんだ。
最も気付いた所で口に出したりする心算は毛頭無いのだ。
私は狡いから、このまま知らない振りをして、ずっとこうして彼と遊んでいたい。
「…秋山、一緒にご飯食べにいこう。」
「話が噛み合ってない。どうしてそうなるんだ。」
「あ、これから講義とか入ってない?」
「入ってない…って、いや、だから…。」
「いいから!奢ってやるって!」
「酔っぱらいかよ。」
「あぁ、そういえば一緒に飲んだこともないね!」
「てかお前まだ未成年だろ。」
(何か食べたい物ある?)(お前が好きなものでいいよ。)
(うわ出たよ他人任せ!それ使ったら彼女怒るからね。)(……。)