「借金を返す方法で最も古典的な方法を御存知ですか?」
「…労働じゃないですか、やっぱり」
ことり、と陶器が彼女の細い指先から離れる音がした。
白い皮膚と、何も塗っていないが整えられた桜色の爪が美しい手だ。
カップの中には淹れたてであろうコーヒーが豊かに湯気を燻らせながら香ばしい香りを放っている。
私は椅子に深く腰掛けたままさんを見上げて問い掛けた。
愚かな彼女は不思議そうな顔をしながら怖ず怖ずと答える。
「違います…もっと分かりやすくて効率の良い方法ですよ」
益々解らない、とさんは小首を傾げた。
さらりと揺れる、私とは正反対の真っ黒な髪。青い血管が透けるような首筋に目が止まる。
あれに歯を突き立てたら、どうなるだろうか。羨望にも似た感情が脳を支配した。
立ち上がると椅子はガタンと小さく音をたてた。そのまま彼女の華奢な肩を掴んでベッドへ押し倒す。
長い髪が白いシーツの海に広がった。
「やっ、止めて下さい!」
「おや、案外強気ですねぇ」
自然と口角が上がる。こんな状況になっても鋭く私を睨みつける双眸が愛おしくて眼球に舌を這わせた。
「ひっ、や、っ…、」
びくりと彼女の体が跳ねる。生理的に涙が零れた。
抵抗する両腕を簡単に捻伏せて細い手首を強く掴む。折れて仕舞いそうな程強く。
「痛、…っ」
「痣、出来てしまいますね、きっと」
赤い唇は非難の言葉を紡ぐ前に塞いで、強引に逃げる舌を絡め取って口内を犯す。
離れると二人を繋ぐ糸が光った。
昔から変わりませんよ。借金の肩代わりに売られた女性はどうなるのでしょうか。
頭の良い貴女なら解るでしょう。
「ぃや、…んっ」
「抵抗されるのもなかなか良いですね」
そのまま首筋に歯を立てた。強く吸い付くと浮かぶ鬱血を舌でなぞる。嗚呼、その肌に良く映えます。
密かに服の中に忍び込ませた右手に小さな悲鳴が上がった。
「あ、ゃだ…、ぁ!」
「嫌じゃないでしょ」
挑発的に見下せば負けず嫌いな貴女らしく唇を噛んで声を殺した。
ささやかで無力な反抗に加虐心が擽られる。
柔らかな弾力を楽しみつつ突起を口に含んで転がした。
「ぅ、…ん…ふ、ぁ」
さんの声が直接鼓膜を震わすように聞こえてきて、くらりと目眩がするような錯覚に陥る。
壊してしまいたい、と思わせる人だと思った。
指で中を犯すと、固く閉じられた睫毛には透明な水滴が浮かぶ。
何故抗うのですか。この快楽に堕ちていけば良いのに。
一番辛くなるのは貴女自身。精神と肉体を競わせたところで生まれるのは痛みだけ。
「んぁっ…は、あ」
それとも、そういう自虐的な趣味なんですか?
「…私には理解できませんね」
そう呟いた私の声は自分を見失わないように、なけなしの理性に必死にしがみつく彼女には聞こえないだろうが。
「ぅあ…あ、あぁ…っ」
「はは、辛そうですねぇ」
ぐっ、と腰を奥まで打ち付ければ華奢な体が跳ねた。唇を噛んで声を抑えようとしても限界がある。
少しずつ、そして確実に大きくなっていく矯声に焦燥を感じたのか反抗と哀願を帯びた瞳で私を睨み付けた。
貴女のその顔、私はとても好きですよ。
静かな部屋には結合部から出る水音とスプリングが軋む音、そして彼女の声だけが響く。
「は、あ、ヨ、コャ、さ…っ!」
ぎゅ、と彼女の長い足が腰に巻き付けられた。
「楽になって良いですよ」
「んっ…あ、あぁ!」
腕の中でさんの体が小さく反り返る。そして直ぐに力無くベッドへと沈み込んだ。
「…憎んで下さっても結構です」
荒い呼吸を繰り返す彼女の耳元で囁く。
憎むことも愛することも胸を焦がす事には変わりないのだから。
08.5/22 なんか…ごめんなさい…。