あの衝撃的な出会いを経て、私は何故か彼の運営するマルチ組織に強制参加させられています。
つまりは犯罪の片棒を担がされている訳です。
被害者から加害者へ、一瞬にして変貌を遂げた私ですが彼に生かされているのも事実。
恨もうと思えば恨むことが出来るのでしょうが…最も憎むべきは愚かにも騙され且つ責任全てを娘に押しつけて姿を消してしまった両親ではないだろうか。
全く親の借金の方に子供を売り飛ばす(…というかなんというか)なんて今の時代じゃ普通に有り得ないだろ。
それにしてもあの気紛れな発言さえ無ければ、私は愛すべき平凡でありきたりな日常を満喫することが出来たのに。
「貴女、なかなか面白いのでウチで働きませんか?」
本当に、あの発言さえ無ければ。
もちろん拒否権など私が有していないのは明白な事実であり疑問文をとったのも形式上の話である。
脅迫となんら変わりない一言で私の人生は大きく変わった。
「逃げ出されたりしたら困りますからね、ここに住んでいただきますよ」
そういって連れてこられたのはヨコヤさんの自宅と思わしきマンションでした。
(どうして素直についてきてしまったのか自分でも可笑しいとは思うが)
生活感のない、真っ白な、必要最低限のものしか置いてない家だった。
なんだか彼をそのまま具現化したような部屋だと思う。
同棲と言えば聞こえは良いかもしれないけど、これは監禁と同意義である。
(だって今”逃げ出されたら”って言ったもん、この人!)
「借金分は給料から引かせてもらいます…まぁ少しですから安心してください」
いやいや、なにマイペースに話し進めちゃってんのよ。
「
ちょっとコレまるっきり監禁ですよ」
「人聞きの悪い事を言いますね、これは保護です」
翡翠の瞳を怪しく輝かせてヨコヤさんは笑った。
「保護…?」
「そうです。もし私が拾わなかったら、貴女は路頭に迷ってたんですから」
「……」
「おまけに衣食住まで保証されるなんて最高の条件でしょう」
「……」
仕方がないと妥協すると同時に私は口喧嘩では絶対に、この人には勝てないということを悟りました。
大学の友人にも似たような奴がいるが、ヨコヤさんとは違う。似て非なるものだ。
前者はまだ抵抗出来るのです。何故なら悪意が無いから。
その点、後者は悪意そのものを形にしたようなものですから反逆など許さない。
有無を言わせぬ圧力のようなものを常に纏っているのです。
もう反抗すらめんどくさい。最悪だ。
こうなったら「就職先決まったじゃん!ラッキー!」と思うしかないのか。
…いやいや無理だろ、自分。こんな物騒な就職先を認めて堪るか
「はぁ…」
「おや、諦めましたか」
「…」
「怖いですね、睨まないで下さい」
くつくつと喉を鳴らしながら、シルバーの指輪が嵌められた右手を口元にもってきて笑う。
なんだろう、すごくイラッとする、この人!
きっとそれすら計算しているんだろうなぁ。冷静な判断力を奪おうとしている。
「まぁ、仲良くしましょうよ。これから宜しくお願いしますね」
「…宜しくお願いします」
誠に不本意ながら私の運命はこの白い人の手の内に納められてしまいました。
08.5/18 私だったら、こんな同居人嫌だな(!!)