彼女は時折この白い男を肉食獣のようだと思う事があった。
確かにヨコヤノリヒコが行っている行為は常に犯罪性に富んだもので
獲物を探す双眸は正しく獣そのものであったし
だとすれば自分は被捕食者であろうと、同時には考えるのであった。
いつだって見下す視線に怯えつつも、それを享受して生きていかなければならない。
そう学習した聡い彼女を見てヨコヤは満足げに目を細める。
短い付き合いの中で、なかなか自分の人間性を理解している、と彼は思うのであった。

「カニバリズム、というものを御存知ですか?」
まさにの細く白い首筋に歯を突き立てた瞬間
彼女の唇から零れ落ちた言葉に男はそこから少し距離を置いた。
薄く浮かび上がる血管の青さに相反する赤いが映える。
「人食主義…ですか」「えぇ、その通りです」
彼女が噛みつくという行動をそのまま人喰いに結び付けたとすれば
それは安易すぎる思考だとヨコヤは思い、小さく溜息をついてから今度は鎖骨に舌を這わせた。
「…それは必ず弱肉強食の原則に従ったものだと、ヨコヤさんは思いますか?」
感じる違和感に少々の悲鳴をあげつつ、彼女は男に問う。
愚問である、とヨコヤは嘲笑した。
考えずとも弱者は強者に淘汰される事が残酷にも運命づけられている、というのが彼の持論だからだ。
口の端を歪めた彼の様子を見て、は答えを悟る。
「…果たしてそうでしょうか」
喰らうのは強者だけとは限らないのですよ、と彼女は続けた。
「人食い行為は消化と排泄による被害者への完全支配や徹底的侮辱を意味しています。
事実、アメリカでは羨望から犯行に及んだ人食い事件があったのです」
通常の人間ならば知り得ない、否知りたくもない情報を何故か彼女は常に有していた。
人間の暗い影の部分を愛する人種がいる。
恐らく彼女もそれに属しているのだろうし、ヨコヤもまた同じと言ってもいいだろう。

まったく喰われる側はたまったもんじゃないですよね。

ヨコヤの行為は止まることなく、の体には赤い跡が刻まれていく。
新しいものと、そうでないもの。
彼女の白い肌の至る所に浮かび上がる赤は所有の証であった。

「ねぇヨコヤさん。私に食べられてみませんか?」

彼女の唇から覗く白い八重歯を見て、それも悪くないかもしれないと
男はぼんやりと思った。

好事家の酔夢

(然し現在進行形で食べられている貴女が言うのも可笑しな話ですね)


08.3/25 どうしても書いてみたかったヨコヤでカニバリズム。