「どうぞ、ヨコヤさんの為に買ってきたんです」

私は目の前で優雅に笑う女の真意を推し量れずにいた。 噎せ返る程に濃厚な香りに軽い眩暈を覚える。か細い両腕に抱えられていたのは、 そこから零れ落ちそうな程の真っ白な薔薇の花束だった。 あまりにも唐突な出来事に私は少々戸惑いつつベルベットのように滑らかな 花弁を撫でながらしばしの間思案を巡らせた。

「…毒でも塗ってあるんですか?」
「なっ…失礼ですね!純粋にプレゼントしたくて買ってきたんですよ!」

さんは先程までの微笑みから一転して眉間に僅かな皺を作る。 その慌ただしい様子が可笑しくてくすくすと笑うと彼女は更に不貞腐れたような顔で 「…いらないなら、別にいいです」と小さな声で言った。 彼女の腕の中でセロファンがくしゃりと音を立てた。

「冗談ですよ、有り難く戴きます」
「…ヨコヤさん私の事少し馬鹿にしてるでしょう」
「そんな事はありませんよ。こっちこそ心外ですねぇ。
 いつもあんなに可愛がっているというのに」
「…っ!?」

薔薇の花から彼女の頬へと掌を移してゆっくりと撫でると さんの顔は見る見るうちに赤くなった。 きっと昨夜の事を思い出しているのだろうと邪推すると自然とまた笑みが深くなるのが分かる。 あぁ、そんな顔して睨むなんて本当に馬鹿ですねぇ。 どうして薔薇なんて買ってきたんです、と花束を受け取りながら質問すると

「学校の帰りに花屋さんがあって…前を通り掛かったら薔薇の花が目に入ったんです」
「…つまり気まぐれ、という訳ですか」
「…そういう表現も出来ますね」

いつもヨコヤさんには貰ってばかりだから、私も何かあげたかったんです。

嗚呼貴女は本当に馬鹿なひとだ。その一言を飲み込んで彼女の額に口づける。 私は貴女に与える事でしか上手くこの感情を表現出来ないのに。 貴女は私から与えられるもの全てを受け入れて飲み込んでくれればそれでいいのに。 そうでなければ私はどうやって貴女を愛でればいい、と。

「やっぱり白い薔薇、よくお似合いです」
「…それでは」

今度は私から貴女に赤い薔薇でも差し上げましょうか。 そう言うとさんは幸せそうに笑って「はい」と答えた。 それでいいんですよ、さん。 あぁ、でも貴女には鮮やかな深紅より優しい薄紅の方が似合いそうだ。

(…どこに飾ります?この薔薇)
(ふふ、バスタブにでも浮かべてみましょうか)
(え、勿体ない…!!)



勿論お風呂には二人で入ります。お約束ですよね!