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私がkingに来た理由ですか?そうですねぇ…実は私、漫画家をやってまして…締め切り間近になりますと身辺の事が疎かになってしまうんですよね。いけない事だとは分かっているんですけれど…。削れる時間は一分一秒でも惜しいのです。今住んでいる家よりも立地の良い手頃な物件を私は探していました。近頃はウィークリーマンションという便利なものもあるらしいのですが…年を取るのは嫌ですね、行動力が無くなってしまう。そうして悶々と悩んでいたある日の夜…イベント帰りでしたので日付を跨ぎそうな時間でしたね、通り掛かった一軒の不動産屋に目を留めました。立ち止まって物件紹介を読んでいた私に声を掛けてきたのが店主だったという事です。 つまり私にとってkingは仕事場という事になります。引きこもりがちな私にはルームシェアというのも魅力的でした。家にいながらネタを集める事が出来るのですから。多少賑やかでも集中力には自信がありますから苦にはなりませんしね。私の後に二名ほど新しい住人さんがいらしたようですが切羽詰まっていましたから挨拶も出来ず仕舞いでして…。無事に脱稿してからまずやることと言えば部屋の掃除です。自分の部屋から始まりリビングに洗面所、玄関も全てです。家を綺麗にして同居人お二方をお迎えして差し上げなければ!それが終われば夕飯の支度ですね。今日は…煮物にしましょうか。あとは焼き魚と…そうと決まれば買い物です。私は上着を羽織って玄関のドアをくぐりました。さっきは気付かなかった春の訪れをゆっくりと感じながら。 私が初めて会った同居人は、可愛らしい若い女性でした。見たところ大学生くらい…でしょうか。両手には買い物袋を提げて、少し吃驚したように目を見開いていましたね。おかえりなさい(初対面の方に言うのは何か変な感じがしますね)と声を掛けると戸惑いながらも律義にただいまと返事を返してくれました。澄んだ綺麗な声をしていたのが印象に残っています。お茶を煎れて自己紹介をして…それから夕飯の支度を手伝って頂きました。最近の子にしてはしっかりしているなと少々驚きましたね。白くて華奢な指先に似合わず慣れた手つきで作業を熟していましたから。あと…そう、彼女の食事の仕方がとても綺麗だった事も印象的でしたね!現代っ子の作法には目に余る所がありますから…そんな中でさんのような方を見かけると何故か嬉しくなってしまいます。私の作った料理を美味しいと言ってにこにこしながら食べてくれて…微笑ましいなぁ、なんて幸せな気分になりました。 「お仕事終わりでお疲れでしょう?片付け位は私にやらせて下さい!」 「あ、そんな気になさらなくても…」 「大丈夫です、ね?」 「…お言葉に甘えて…」 なんか素敵ですね、このやり取り…。満足気に笑うさんが…正直に言いましょう、とても可愛くて思えて…これは…父性愛?こんな孫が欲しいです、私。しんみりと悦に浸っているといつの間にやら片付けを終えたさんが私の背後に回って肩に手を置きました。吃驚して振り向くと彼女は神妙な面持ちで 「本田さん…凄い肩凝ってるじゃないですか…」 「えっ?」 「漫画家さんって聞いてから気になってたんですけど」 「そう、ですねぇ…職業病のようなものですから、」 「肩揉みしますよ!」 嗚呼…やっぱり幸せです、私…。もう一人の住人さんはどんな方なのでしょう。上手くやっていけそうな気がします…。 |