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「桜って好きじゃない」「何故です?綺麗じゃないですか」 散ってしまった桜の花弁を忌ま忌ましそうに見つめて靴底で踏み付けた。そんな私を菊は何時も通りの寛容な無関心で許したけれど漆黒の瞳は不可思議そうにこちらを見ていた。彼からしてみたら桜を蹂躙するよりもその存在を嫌う私の感性が理解出来なかったんだろうと思う。はらはらと舞い散る薄紅の雨を纏う菊は目が醒める程に美しかった。そっと手を遣ると彼の掌にふわりと桜が落ちた。それを慈しむような、愛おしむような表情で彼は笑った。 「私は好きですよ。咲き誇る様も素敵ですが散り行く儚さも風情があって素敵です」 「散ってからが不様だわ」 「……。」 道の片隅の吹き溜まりを見遣れば茶色に変色した残骸たちがいる。元の美しさが嘘のように皺々だ。こうなれば誰も目を留めやしない。人が愛でるのは彼らが青い空を舞う瞬間だけだ。皆そこから先は、もうどうでも良くなってしまう。 「花でさえ、こんなにも醜く果てないといけないなんて」 「…優しいですね、さんは」 「菊、私たちは、」 「そうですね、たくさんの人たちを見送ってきました」 「……。」 栄華を極めた権力者だって末路は悲惨だ。知らない土地で誰にも看取られずに孤独に死ぬものだってある。彼らは自分の築いてきた栄誉やこれからの世、そして家族たちを思いながら死んでいく。私も菊も、そんな人達を飽き飽きする程見てきた。それでも心は痛むばかりで慣れてはくれない。 「どうして皆壊れちゃうのかな」 「寂しいですか?」 「菊は寂しくないの?」 「…忘れられたら楽になれますかね」 「あ…」 ごめん、その言葉が出てこなかった。否出せなかった。その三文字でこの罪悪感が拭えるとは思えなかったし菊にとって大した意味を持つことは無いと思ったからだ。私はこの菊の自嘲するような笑顔が大嫌いだった。この人は全部一人で背負おうとする。 「でも、貴女がいれば、寂しくなんてないんですよ」 嗚呼この人はなんて残酷なんだろう! 捏造隠岐擬人化ヒロイン。 |