「風邪ですね、完璧に」
「うぅ…」
「学校はお休みになった方が宜しいかと思います」
つい数時間前に頭が痛いと愚痴を零していたかと思えば
今は40度近い熱を出し、彼女は広いベッドの上ですっぽりと布団を被っていた。
時計の針は夜の11時を回っている。
白いワンピースを纏った同僚がさっきまでが様の側に控えていた。
「…少し過保護なんじゃないですか」
「あら、私もあなたに同じ事を思っていましたわ」
「…」
廊下で擦れ違ったときの会話が思い出される。
思わず顔を歪めた私を見て、彼女は対照的に柔和な笑みを浮かべて去っていった。
つくづく喰えない女だと思う。
「…喉乾いた」
「はい」
先ほど訪れた医者から処方された薬が置いてあるサイドテーブルに備えてあった水差しを傾ける。
室内との気温差から生じた水滴たちが浮かび上がっていた。
ガラスのコップに注がれた冷たい水をこくりと飲む様は熱のせいか瞳が潤んで頬が赤く火照っている。
(あぁ、やはり可愛いですねぇ…)
大きな枕に華奢な体を預けて「眠れない」と彼女は呟いた。
「いけませんよ、ちゃんとお休みになって下さらないと」
「…風邪引いてる時ってどうしてかしら、心細くなるのは」
驚いた。気の強くて負けず嫌いの様から弱音が零れるなんて。
長い睫毛を少し伏せて、白いシーツの海へと視線を漂わせている。
「なんでかな、みんな傍にいてくれるのに、どうしようもなく寂しくなるの」
「……」
「我が儘だよね、こんなの。ごめん」
「…私は、嬉しく思いますよ」
寧ろもっと頼って下さると更に嬉しいんですがね。
その言葉は主の唇を奪うことで打ち消した。
熱に浮かされた頭では、さすがの様も抵抗は出来ないらしい。
触れるだけのキスにとどめておく。
「…風邪、移っちゃうよ」
「そうなったら、様が看病してくださいね。ふふっ」
「…ばか」
08.6/6 この後ケルが風邪引くかどうかは不明です。