稀に躯が黒い沼の中に沈んでいくような、どうしようもない倦怠感と喪失感に襲われる時がある。
そんな時は何もせずに広いベッドの上で眠るでも無く目を閉じて思考を停止する。
意識はある。ただ空気との同化を図ってみるのだ。
正常な私だったら、まずこんな事は考えもしないだろう。

「…何をしていらっしゃるんですか、様。」

何かが聞こえて、ゆっくりと目を開ける。
声のした方向には向き合わずに天蓋だけを見つめる。

「何をしていたも何も…寝てたの。」
「嘘は良くありませんよ。」
「お前…。」

ケルベロスには言われたくないと思ったけれど
嘗て彼が私に嘘を吐いたことがあっただろうかと疑問に思ったので口には出せなかった。

気付けばケルベロスは長い足を組んでベッドの縁に腰掛けていた。私も上体を起こして座り込む。
真っ白な海の中で黒を纏う彼は明らかに異質な存在だった。
異質なものは追放しなければならない、けれど。
ぎしぎしと音を立ててスプリングが泣き喚いているけど、私は素知らぬ振りをして
ケルベロスの背中へと躯を預けて、ぎゅっと首に腕を回して抱き締める。
あったかい体温に酷く安心している自分がいた。

「今日は随時と積極的ですねぇ。」

胸元から嬉しそうな声が聞こえた。勿論あの気味の悪い笑いも後から付いてくる。

「…そういう気分なのよ。」
「そうですか、」

不安定な今の私には何か頼るものが必要なのだ、きっと。
下を見ると、いつもは上にある筈の彼の顔が私を見上げていた。

(睫毛長いわね…)(ちょっと悔しい)

座っている彼に対して膝立ちをしている私の方が若干高くなっているのだ。
その瞳が何だか誘っているようだったので少し体勢は辛いけれど覆い被さるようにキスをした。


瞳に沈むアルカディア


(…続き、して欲しい?)(様のお好きにどうぞ?)

08.9/15 この2人を書くと9割方ベッドの上にいる気がする。