赤い髪をしたお兄さんが金髪のお兄さんになって帰ってきた。嘘、違う人が入ってきた。 高そうな黒い細身のスーツを着こなした男はコツコツと小気味の良い靴音を立てて こっちに近づいてきた。その途中で黒髪の刑事さんが小さな声で「うげ」と言ったのを 私は聞き逃さなかったし、スーツの人もぎろりと彼を睨んだ。 取り合えず黒髪さんは金髪さんが苦手らしいという事は分かった。 ぽかんとした間抜け面でその様子を見ていた私を見下す長い睫毛に縁取られた瞳は 只ひたすらに冷たかった。やばい。これはやばい。本能がそう告げていた。全身が強張っていく。 あぁさっきの人が帰って来てくれたらいのに。こんな事になるなら意地なんて張らないで さっさと全部話してしまえば良かったんだ!なんて仮定の話を展開したところで 何の解決にもなりはしないのだが。男はどかりとパイプ椅子に腰を下ろした。 すらりと憎らしい程に長い脚をテーブルの上に乗せ組む。その様は 粗野なんだか優雅なんだかよく分からない。軽く組まれた骨ばった細い指が綺麗だった。てか態度悪いな。

「…で」

男が切り出した。ターコイズブルーが私を私を捕らえた。

オメーの部屋で人一人死んでた訳だが、どういう事か説明してもらおうか?

胃の辺りに何か重い石のようなものが急に落ちてきたような感覚に陥った。 視界の隅の方で黒髪のお兄さんの眼光が鋭くなったのが見えた。なんだ、そんな顔だって出来るんじゃない。 そう、私に掛けられている容疑は殺人罪。恋人が殺された。私の部屋で。 最も殺されたなんて思っているのは私だけで、それ以外の奴等は私が 殺したと思ってる。その筆頭がこいつ等だ。不謹慎な話だが私が男で、 掛けられた容疑が痴漢なんかだったらどんなに良かっただろう。金でどうにかなるのだから。 濡れ衣にしても、これはあまりにも重すぎる。人の命を奪うなんて。 一瞬にして押し黙ってしまった私に、畳み掛けるようにして男は言った。

「俺の質問にだけ答えろ。黙秘なんざ認めねェッ!」
「…。」
「返事はどうした?…潔白だって言うなら」
「…分かった」

やってやるわよ、全部濁さず答えきってやるわよッ! キッと目の前の男を睨み付けると猫の様に目を細めて笑った。馬鹿にすんな。 苛々が募って今にも机を蹴り飛ばしてしまいそうだ。もともと私は気の長いタイプじゃない。 …つーかコレ明らかに不当な取調べじゃないの?訴えたら勝てるんじゃないの?

「まずお前と被害者の関係を言え」
「恋人。…一応だけど」
「一応?」
「別れかけだったの。丁度殺される直前まで別れ話してた」
「…へぇ」

形の良い薄めの唇が曲線を描く。よく表情の変わる奴だと思う。その表情の 一つ一つがどれをとっても美しいのだから更に腹が立つ。男は、で?と話の続きを 促すように小首を傾げた。

「私の方から別れたいって言ったのよ。…理由は話さなくてもいいわよね」
「話したけりゃ話せ」
「取り合えずあっちに非があったとだけ言っておく。…そしたらあいつが
 逆上してきて、話にならなくなったから家を飛び出したの」
「なんでオメーが家を出る必要があんだよ。オメーの家だろ」
「仕方ないじゃない。そんな事考えるよりも先に身体が動いてたのよ
アイツ絶対自分から出て行ったり謝ったりするような奴じゃないわ!」
「…オイオイ、そんなんで信用されると思ってんのかよ?」

今ンとこ、お前が圧倒的に不利だぜ。


自分で言うのも何だが俺はこの仕事向いてないんじゃないかって思う。 特に取り調べは好きじゃない。ここに来る奴が全員有罪確定なら話は別だが稀にいるのだ、彼女みたいな奴が。 証拠や状況からして圧倒的に不利ではあるが100%クロって訳じゃあない。 被害者の胸に刺さっていた刃物に彼女の指紋が付いていた… それなら話は早いが現実はそうはいかない。凶器が見つからないのだから。 気丈に振る舞ってはいるが瞳には明らかな戸惑いと恐怖が浮かんでいる。 俺だって一応は刑事だ。嘘を吐いている奴とそうじゃない奴の 違いくらい分かるつもりだ。だけど自信を持つ事が出来ないのは引け目を感じているからだ。 目の前の男みたいに自分を信じて生きる事が出来たらどんなに良いだろうと溜息を吐きそうになって思い止まった。 溜息を吐きたいのはたぶん彼女だってそうなのだ。 否、本当なら泣き出したいくらい怖いはずなのだから。同情したい、けど、それは許されない事だから。 …やっぱ俺この仕事向いてない。壁に頭を預けながら横目で二人の様子を伺う。 プロシュートは相変わらず容赦無く尋問を繰り返していた。鋭い目逸らされる事はない。俺もあの目は苦手だ。
「動機は成立してるじゃあねぇか」
「あたしそんなつまらない事で人生棒に振るほど馬鹿じゃないつもりなんだけど」
「俺ぁテメーと喧嘩してる訳じゃあねぇよ。きっちり証言さえしてくれりゃ良い」
「…家を飛び出してから、近所のコンビニに行ったの」
「…!」
「ずっと雑誌読んでたわ。たぶん…防犯カメラに映ってると思う」

それを先に言えよ…、とプロシュートが呆れたように、というか明らさまに呆れてんだけどな。 それはそれは盛大に。この男は割と喜怒哀楽がはっきりしてる。彼女は彼女で バツが悪そうに眉をハの字にして、それでもやはり気の強さは隠し切れないのか少し反抗的に プロシュートを見て「だって言える雰囲気じゃなかった…」とか何とか言ってた。 気持ちは分からなくもない。プロシュートから発せられる圧力には同僚だって少々参るときがある。 はぁー、と盛大に溜め息を吐いてからプロシュートはガタリと立ち上がった。先程よりも幾分か雰囲気は柔らかくなっているものの やはり元来この男が持っている威圧感というものは健在で、立ち姿になったことである意味それは増幅したと言って良い。

「…分かった、お前はやってねえんだな?」
「…う、ん」
「ッ…プロシュート!」

確かにアリバイがあるという証言がとれたとしても、その判断は早すぎる。 仮に真実だとしたって、軽はずみじゃないか。なんか俺矛盾してる。俺は彼女を潔白だと思って、半ば確信に 似た何かを抱いているし、取り調べも早く終わればいいと思ってんのに。 …つまり俺は臆病だってことだ。過ちの先にあるものが怖くて仕方がない。 もし彼女が嘘を吐いていたとしたら。釈放された犯人がすることと言ったら証拠隠滅しかないのだ。 プロシュートだってそれを知っている。それでもコイツは言い出したことは曲げないだろう。彼女は釈放される。 プロシュートは俺とは違うのだから。

「俺の勘だ。…まぁコイツの証言したコンビニの監視カメラ洗えば分かるだろ。
 どっちにしろ拘留期間は決まってんだ」
「あ、あぁ…」
「悪かったな。…泣くんじゃあねえッ」
「泣いてないッ」

緊張から開放されたせいか、赤くなった目は明らかに潤んでいて、ちょっと可愛いな、なんて思ってしまった自分に 嫌気がさした。待て待て俺。

「ッたくマジで気の強い女だぜ」
「…安心したら一気に疲れた…」
「勘違いすんなよ、まだシロだって確定した訳じゃあねぇ。
 お前にはまだ色々聞きてぇ事が山ほどあんだよ」

しっかりと釘を刺しながらもプロシュートは胸のポケットから小さな青い箱を取り出した。 このヘビースモーカーめ、と心の中で毒づく。煙草の煙は嫌いだ。でも、リーダーが気を利かせて 俺たちの仕事場は分煙にしてくれたからプロシュートの一服はここでは見込めない。ざまぁみろ。 喫煙室へと足を進めるため俺たちに背を向けたプロシュートに向かって彼女、は 「犯人捕まえてくれるなら、何だって協力するから!」と凛とした声を掛けた。

「…いい返事だ」

彼はちらりとこっちを見て片側だけ口角を上げてニィと笑った。かっこつけやがって。





イルーゾォ書くの楽しくてどんどん書いてるうちにすげぇ卑屈な奴になってしまった。
卑屈なイルーゾォ…いいじゃないですか素敵じゃないですかー!←
そんなこんなでウチのイルーゾォはたぶん性格最悪です。