「ねぇねぇ、伊集院くんて私の事嫌いでしょ」
心臓がどくりと大きな音をたてた。
先の言葉を放った当の本人は何事も無かったかのようにコーヒーを一口啜っている。
僕に見向きもせずに、窓の外をぼんやりと眺めていた。
「な、どうしてですか?」
「だって君は私の目を見ないもの」
止めを刺された気がした。
彼女の言う通り、僕はさんが苦手だった。
何でも見透かしているかの様に美しく笑うから。
専門分野は違うけど、この人には絶対に勝てない気がする。
劣等感。つまりそういうことなんだろう。
もしかしたら理由なんて無いのかもしれない。
「嫌いじゃ、ないですよ」
「はは、嘘だね」
どうして笑うんですか。
その余裕綽々な所も、見ていて苦しくなる。
理解し難い者への漠然とした恐怖。
初めて会った時から、この人を見ると、なんだか靄のようなものが心にかかる。
落ち着かない。
「嫌いならそれはそれで構わないんだよ、伊集院くん」
「え…」
白いコーヒーカップを机に置いて、視線を僕に真っ直ぐ注ぐ。
射抜かれたように身動きがとれなくなる。
周りの音が急に聞こえなくなった気がした。
自分の鼓動だけが警鐘を鳴らす如く五月蝿く鳴り響く。
止めて下さい。その目で僕を見ないで下さい。
「伊集院くんが嫌なら、私はなるべく接触しないようにするよ?」
平然と言ってのける彼女は、卑屈になっている様子でも
自棄になっている様子も無かった。
僕がどんなに焦燥に駆られているのか知っているんでしょう。
知っていて態とその態度を取っているんでしょう。
意識過剰?いや、そんなはずはない。
皆はさんの事を「猫」と喩えているけど、僕は違う。
彼女は「狐」だ、絶対。
「いや、その、そうじゃなくて…」
この人は絶対楽しんでる。
困っている人を見て楽しんでる。
「じゃあ、どういう訳なの?」
悪戯そうに唇を三日月のように歪めて、笑う。
(目を見たら、駄目だ)
(見たら、戻れなくなる)
「僕は…」
足元が崩れ落ちた気がした。
08.3/15 暗すぎた!実は大好きなんだけど、好きになっちゃいけないと思っている伊集院くん。