少し久しぶりに会った彼女は目の下に薄い隈を作っていた。
元々健康的なタイプという訳でもなく尚更心配だと藤吉は思ったので
「仮眠室貸して頂けませんか」という依頼に対して二つ返事で承諾した。
「…いや待て。なぜ精神病棟の仮眠室を使わない」
真っ先に浮かぶはずの疑問は少し遅れてやってきた。
は既にベッドの中で布団をすっぽりと頭まで被せている。
「だって仕事場から少しでも離れた場所の方が緊張感なく眠れそうじゃないですか」
藤吉に応えるべく、ひょっこりと毛布から顔を出して言った。
今日は夜まで仕事ないんです、と笑う彼女。
最近は忙しくて生活もままならなかったらしい。
妙に納得できる返答によって彼は何も言えなくなってしまった。
ベッドの側まで小さな椅子を引っ張ってきて座る。
部屋には二人しかいなかった。
「最近眠れないんですよね…」
ぽそりと独り言のように呟いた一言は空気に飽和して消えた。
小さな声ではあったが藤吉の耳にはしっかり入っていたようで
「精神科医が不眠症になってどうする」
「ですよねぇー…」
彼女の顔はこれまで見たことがないくらい疲れていた。
顔色もあまり良くない。
これは大人しく、速やかに寝かせてやるべきだという選択が藤吉の脳内会議で可決された。
「じゃ、おやすみ」
夕方になったら起こしに来てやろう。
静かに席を立って仮眠室を出ようとした彼の行動は何者かによって阻止された。
「なにをする」
振り向けば布団から伸びた腕が白衣の袖をしっかりと掴んでいる。
おそらく何を言っても解放してはくれないだろうと藤吉は思った。
「一緒にいてください」
か細い声で放たれた一言の破壊力は絶大で
彼は気付くと先ほどの椅子に腰掛けて彼女の手を握っていた。
(あ、あれ…?)
そんな彼の姿を見たは満足そうに微笑んでから、ゆっくりと目蓋を閉じた。
(それは反則だ…!!)
柄にもなく赤くなったこの顔を見られなくて良かった、と藤吉は思った。
Melt...
08.3/27 いい大人が赤面してる所って可愛いですよね!