死んだように眠るとは、まさにこのような事を言うのだと藤吉圭介は思うのだった。
規則正しく繰り返される寝息は、とても浅いものであったし
もともと体温の低い彼女の指は氷のように冷たかったので
彼はの寝姿を見る度に細い首筋に手をあてて脈を計ったりして
指先に伝わる微かな鼓動を確かめては安堵した。
いつもの妖しい輝き放つ猫のような瞳は閉ざされていて
長い睫毛が白磁の上にうっすらと影を落としている。
生命を感じさせるのは血色の良い、赤い唇だけであった。
死人でなければ、人形のようだとも思う。
それが妙に藤吉を惹きつけるので、彼はそっと滑らかな頬へ手を添えて、
親指の腹で彼女の唇をなぞった。
彼女は知っているのだろうか。
彼女が金髪の麻酔医と楽しそうに談笑する姿を見る度に
丸眼鏡の外科医に茶々を入れる姿を見る度に
彼の腹の中の黒い蛇が鎌首をもたげていることを。
出来ることなら、彼女を暗くて狭い牢獄の中へ閉じ込めて仕舞いたいと思っていることを。
自分は何時の間にこんな犯罪めいた考えを持つようになったのか。
彼は小さく溜め息を零すのであった。

「…どうしたんですか、そんな顔をして」
…」
ゆっくりと開かれたの瞳が真っ直ぐに藤吉を射抜いた。
自分の思考回路が彼女に見透かされているような錯覚に陥って、少し狼狽する。
彼はもう一度彼女の瞳を閉ざすべく、薄く微笑んだの瞼に口付けるのだった。
(知られては いけない)

08.2/20 藤吉圭介の憂鬱(笑)