、お前、俺に何か渡すものがあるだろう」
「え、なんのことですかー?」
「惚けるな」
…普通自分から言いますか。
バレンタインなんて一年間で一番ロマンチックなイベントなのに
ムードも何もあったもんじゃないですよ先生。
「…その右手は何ですか」
「チョコ、用意してるだろう」
ああ、どこから来るんだろう、その自信。
確かに用意してますよ。机の引き出しの中に入ってますよ。
割と頑張って作っちゃいましたよ。
「あの、」
「まさか用意してないとか、ないよな?」
もしかしてこのまま出さなかったら私、殺されるんじゃないだろうか。
さわやかな笑顔が恐怖を更に煽っています。
「えっと、あの、ふじよし、せんせい」
「なんだ」
「私は普通に渡したいのですが、これじゃあまるでカツアゲです、よ」
だって見てよほら。藤吉先生、背、高いから
私ものすごい見下されてるし
(そう感じさせるのは身長差だけではないはずだ)
私の後ろ、壁だし。
(なんて古典的)
差し出された右手が「金出しな!」的な空気醸し出してるし。
「…そうだな」
藤吉先生は小さく頷いて、手を引っ込めた。
そして、くるりと踵を返して机の上のカルテを手に取る。
解放、された…。
コツコツと靴音を響かせながら遠ざかっていく。
「今日中に俺がときめくようなシチュエーションでチョコ渡せよ。
間に合わなかった時は、どうなっても知らないぞ」
ドアが閉まる直前に振り返って言い放った彼の一言は
恐らく今まで私が聞いてきた言葉の中で、最も拘束力を持った一言だった。
バタンと空気を震わせた扉の音が、スタートの合図。

(ど、どうしよう)(なんだか墓穴を掘った気分だ)

08.2/14 たまには強気な藤吉先生を。