「フランシス!今日は何の日でしょーか?」

HRが終わり、一日の終わりを告げるベルが校内に鳴り響いた。それと同時に俺は鞄を肩に掛け廊下へと歩を進める。今日は暖かくて眠くなっちゃうね。これは絶好の昼寝日和だ。そんな事を考えていた俺の目の前にぴょんと飛び出してきたのがちゃんだった。

「んー…お兄さんとちゃんが付き合って一年目の記念日!」
「残念!てか私たち付き合ってないよね!」
「そんなツレない事言わないでさ。じゃ、いっそ今日から俺と付き合わないかい?
 ほら素敵な記念日じゃないか!」
「はー…本当残念だな、お前は」

正解は生徒総会一週間前でしたー!

いつもだったら見惚れてしまう程に眩しいちゃんの笑顔も今日ばかりは背筋の凍る思いだ。怖い、怖すぎる。背後に禍々しいオーラが見える。ぽかぽか陽気が一瞬にして氷点下。逃げるしかない。そう思ったときには既に遅く、彼女の華奢な掌がしっかりと俺の手首を掴んでいた。正直に言うね、すっごく痛い。血ぃ止まっちゃうんじゃないかな、これ。振り払ってみようかと少しの抵抗を試みたけどびくともしない。この細い体の何処にこんな馬鹿力が眠っているのかな!

「さー仕事しようか!副会長!」
「い、いたたたた!お兄さんお腹痛くなってきた!保健室…いや病院行かなきゃ!」
「じゃあ私が診察してあげようか。フランシスの大好きなナースコスしてあげる」
「マジで…っ!?」「ばーか嘘に決まってんでしょ」

一瞬本気で喜んでしまった自分が憎い…っ!!ナース…しかも自分の好きな女のナース姿に興奮しない男が何処にいる!?否いないね!絶対いない!もしいたとしたらそいつは男じゃない!お兄さん断言する!あまりの恐怖に俺のテンションは、かなりハイになっていた。違う世界にトリップできる程に。嗚呼ナース姿のちゃん超可愛い。お兄さん患者も棄てがたいけどお医者さんポジを希望する。誰もいない診察室でちゃんとやましい事したい。これは浪漫だ。そんな事考えてるうちに俺は生徒会室のドアをくぐっていた。中では忌々しい眉毛野郎が豪華な椅子(生徒会長専用)にふんぞり返っていて「御苦労だったな」なんて偉そうに…!!ちゃんは「仕事ですから」と至ってクールだ。仕事中は同い年の俺とアーサーにも敬語で接する。そんな彼女に憧れの眼差しを送るのはセーシェルちゃん。常日頃からあの眉毛に虐げられてる彼女は会長と対等に渡り合えるちゃん(もしかしたら生徒会で一番やり手かもしれない)を憧れの先輩として崇めている。ちゃんもそんなセーシェルちゃんが可愛くて仕方がないらしく実の妹の様に接している。可愛い女の子が仲良くしてる姿って、なんか良いよね。

先輩いつもお疲れ様です…!お茶淹れますね!」
「ありがとうセーシェルちゃん!」
「おい、俺にも紅茶頼む」
「お兄さんにも…」「まずはコレ、仕上げて下さいね」

再びあの恐ろしい笑み。俺が惚けていた次の瞬間机の上に重々しい音を立てて大量の書類が現れた。やばい。これはやばいぞ冷や汗が止まらない。ちょっとちゃん何持ってるの?え、ロープ?なんで俺椅子に縛り付けられてるの?なんで何時もより活き活きした表情してるのちゃん!もしかしてそっちの気があるんだろうか…個人的には嬉しいです。あ、いや、今はそんな事言ってる場合じゃ…!

「さ、頑張りましょう副会長」「そんな…」
「今までサボりまくってた罰だ、バーカ」「そーですよ」

俺、四面楚歌。

「…」「手、ちゃんと動かして下さいよ」「駄目だ…」「はぁ?」
ちゃん、お兄さんにキスして!そしたら頑張るから!」

ここまで来たらもう自棄だ。ただでは転ばないのがお兄さんクオリティだからね。まぁ、きっとちゃんは冷たく俺を罵ってから自分の席に着くんだろうな…。そう思って目を伏せた俺の隣から、気配が消えない。驚いて視線を上げると、そこには少し悩んでいるように口元に手を遣る彼女の姿があった。え…これはまさか…

ちゅ

小さなリップ音(えろい…!)と共に離れていく柔らかな感触が感ぜられたのは俺の唇の限りなく近く。口角、と言えばいいだろうか。とにかくすれすれのラインで焦らされた訳である。一瞬の出来事でパニックになっているお兄さん(中学生か)とそれ以上に驚いている眉毛とセーシェルちゃんが視界に入った。そんな中一人だけ涼しい顔をしているのは、ちゃんで。俺の頬に優しく添えられた白い手がゆっくりと戻されるのが名残惜しい。

「仕事全部終わったら好きな所にキスしてあげますからしっかり頑張って下さい」