「ねーヒマなんだけど。お兄さんと楽しいコトしよう」
「昼間から何言ってるの?っていうか触らないで」

一体何だというのだろう。私は目の前の男:フランシス・ボヌフォワの思考回路というものが理解できない。こんな昼間から私を押し倒すとは全く良い度胸だ。 最もこのような出来事は数え出すのも億劫になるほど日常化しているのだけれど。その都度、彼は決まって 「だってを愛してるから仕方ないんだよ」とよく分からない理屈を並べて行為を続行しようと試みる。お兄さん間違っていますよ、それは性欲です。

「考えてもみろよ。好きな女が目の前で、しかもベッドの上で美しい素肌を曝け出してるんだ。 ムラムラしない男が何処に居る。いや、居ないね」
「随分と自分勝手な理由ね。お兄さん」

私はフランシスに一瞥もくれないで只黙々と活字を追い薄い頁を捲る。ベッドの上にいるのは、日当たりが良くこの部屋の中で一番居心地の良い 暖かな場所であるからであって別に誘っている訳ではないのだ。第一素肌を曝け出すなんて、そんな大仰に言わないで頂きたい。 今日着ていた服が偶々膝上丈のワンピースだっただけじゃないか!

「そんな冷たい所も好きだよ」「っあーもう邪魔!!」

一時距離を空け、私の足下でぽつんと座っていたフランシスが再び迫ってきたので反射的に、足を出してしまった。昔から散々注意されてきた足癖の悪さ。 (幼い頃からフランシスを筆頭にアントーニョ、ギルベルト…数多くの犠牲を出した) 御自慢の美しい顔を足蹴にして、押し返すように力を込める。

「痛い痛い!ちゃん!痛いって!」
「煩い危険人物め!さっさと帰りなさいよ!いつまで居座る気だ!」
ちゃんが相手してくれるまで帰んない」
「このっ…!」

いい加減実力行使に出ようかと本をぱたんと閉じ、上体を起こした瞬間、世にも情けない悲鳴が私の口から飛び出した。 フ、フランシスが、私の足の裏を、舐めたのだ!うわぁああぞくぞくした! ざらついた舌が土踏まずの緩やかなフォルムを這う、何とも言われぬ独特の感触。思い出すだけでも鳥肌が立つ。

「ひぃっ!」
「あらら、もう終わり?」

なんでこの人は解放されたのに若干残念そうな顔をしているんだろう。何、ドMなの? 彼は大きな掌の上に私の足を乗せて、鮮やかに彩られた爪先にキスをした。 そんな動作ですら様になってしまうのが彼の凄い所だ。それは認めよう。 然しこんな奴の相手をしていたらキリがない。無視だ。こういうときは無視に限る。そうすればきっと彼も飽きてくれるはず。 優しさを求めるならそこら辺の女の人に声を掛ける事だ。直ぐに相手は見付かるだろう。顔だけは良いのだから、顔だけは。

ちゃーん?機嫌悪いの?」
「(御陰様でな!)」
「…放置プレイ?良いね、お兄さんそういうの結構好きよ」
「いい加減黙れよ変態野郎」

やってしまった。無視するって決めたのに!悔しい悔しい悔しい!いつも気付いたらフランシスのペースに巻き込まれてしまう自分が悔しい! 目の前の男はしてやったり、と言わんばかりの得意顔だ。柔らかな金色の髪がゆらりと揺れて、窓から射す光を含んでまた光る。

「…いい加減に懲りたらいいのに」
「あ、押して駄目なら引いてみろって事?」
「どうやったらそんなにポジティブな受け止め方できるの?羨ましいわ」
「人生楽しく過ごすコツだよ、お嬢さん」
「…ソーデスカ」

何をやっても何を言っても彼には勝てないような気がしてきて大きく溜息を吐いた。 時計はもう直ぐ午後三時を指す。少しずつ傾いてきた太陽が私の敗北を嗤っているかのように輝いていた。


愛しのルーティーン